電子書籍への取り組み・他団体との協働
デジタル時代の新しい出版形態である「電子書籍」。その動きにいち早く取り組んできた中西出版の活動をひもときます。また他出版社との連帯を深め、地域文化を次世代に残すために、他団体と協働しての活動も行っています。
電子書籍への取り組み
電子絵本『おばけのマールとまるやまどうぶつえん』iPad版の発売
中西出版が電子出版を手がけたのは、「電子書籍元年」と言われた2010年で、「iPad」の登場という、エポックメーキングな出来事がきっかけと言える。
主に「携帯コミック」という形で継続していたわが国の電子出版の状況だったが、iPadとiPhone(さらにそれに続くAndroid系端末)の登場やネット環境の充実で、音楽や映像と同様に書籍コンテンツもネットワーク上で楽しめる条件が整い、新しいステージに向かうことが可能となった。
当時は、アップル社のAppstoreにアプリとしての書籍コンテンツを公開することが、一般的な対応であり、当社も携帯コンテンツ制作で実績のある制作会社とのコラボで、iPad版の電子絵本アプリ『おばけのマールとまるやまどうぶつえん』を公開した。
日英の2か国語対応とし、さらに様々な機能を持つ「リッチコンテンツ」として話題を呼んだ。このアプリの制作は、採算的には決して利益を産み出したわけではなかったが、異業種との連携を含め、新しい表現の可能性を追求する貴重な経験となった。
「ブック・ネット北海道」の開設と撤退
2011年秋、多くの書籍をコンスタントにデジタル化して公開していく方法として、Appstore上に「ブック・ネット北海道」というストアアプリを公開した。アプリを無料でダウンロードし、アプリ内課金の仕組みを利用してコンテンツを販売するというものである。中西出版の他、札幌市内5社のコンテンツを扱った。
「ブック・ネット北海道」の公開当時は、現在の電子書籍の標準ファイル形式である「EPUB」が、日本の出版物に特徴的な縦書き・ふりがななどの表示に未対応だったため、これらを実現できる国内の独自規格「.book(ドットブック)」形式を採用しスタートを切る。同アプリは地方出版社独自の取り組みとして話題を集めたが、iOSアプリのため、同OSの端末でしか利用できないという制約を持っており、順調な推移とは言えなかった。
直後の2012年末から2013年初頭にかけ、アマゾンのKindleストアとアップルiBookストアの日本語対応サービスが開始され、さらに楽天による「kobo」の買収が起こるなど、状況の変化は早く影響は大きかった。
当社は独自のストアアプリの維持は困難と判断し、電子書籍の取次会社を通して、コンテンツを一般電子書籍ストアへ流通させる方向へと方針をシフトする。「ブック・ネット北海道」は2013年夏に配信を終了することとなった。
電子図書館へのコンテンツの提供と電子書籍ストアへの配信
ちょうど同じ時期、公共図書館でも「電子図書館サービス」導入の第一波が起こっていた。図書館と出版社の立ち位置は異なるが、当社は地方で電子出版の裾野を広げるには、両者の協力が有効であるという考えに立ち、まずは札幌市の「電子図書館実証実験」への協力の求めに応じた。
その後、2013年6月にこの「実証実験」に協力した出版社を中心とする16団体で、「一般社団法人 北海道デジタル出版推進協会(HOPPA)」を設立。まずは札幌市中央図書館へデジタルコンテンツを継続的に供給することを柱に、図書館の電子化関連の業務への協力を始めた。
当社も会員社として参加し、地域への文化的貢献の一端を担っているが、HOPPAが収集した地域のコンテンツは現在、全国の電子図書館や一般電子書籍ストアへも配信されており、この活動が地方における電子出版事業が普及と、出版社同士の交流につながればと考えている。
なお、現在は「EPUB」規格が日本語組版に対応したため主流となり、専用の作成ツールを必要とする「.book」など国内独自の規格には、非対応の電子書籍ストアが増えつつある。
他団体との協働
一般社団法人 北海道デジタル出版推進協会(HOPPA)
札幌市の出版社及び雑誌社が中心となり、2013年6月に設立された団体。誕生のきっかけは、札幌市中央図書館が2011年から翌年にかけて実施した「電子図書館実証実験」にある。
この実証実験の結果を踏まえ、中央図書館が「電子書籍貸出サービス」の実現に向け準備する過程で、実証実験に参加した出版社・雑誌社にコンテンツの継続的な提供を求めた。その呼びかけに応じた12社と図書館関係者が「さっぽろ電子書籍流通検討会」を設置。5回に亘る検討会の中で、コンテンツ提供のルールや契約などについての意見交換や、講師を招いての講演などを実施し、窓口となる組織の立ち上げが必要という結論に至った。
最終的に参加を辞退した出版社も出たが、この過程で新たな出版社や個人も加わり、16団体の参加で「一般社団法人 北海道デジタル出版推進協会」が設立された。現在は、札幌市中央図書館や、他地域の公立図書館への販売のためのコンテンツの収集及び電子書籍化作業を中心に行い、電子書籍取次経由での一般販売や、関連イベントへの協力などの活動を続けている。
2021年7月現在、賛助会員を含め加盟は23団体。なお、中西出版社長の林下が代表理事に選出されており、事務局の運営に当社も一部協力している。
NPO法人 日本自費出版ネットワーク
NPO法人 日本自費出版ネットワークは1996年に設立され、2004年に特定非営利活動法人に認められた団体。自費出版を新しい民衆文化ととらえ、その普及を通じて学術、文化、芸術の振興と豊かな市民生活の創造を目指すために、自費出版物の作成にかかわるあらゆる活動を支援し、多くの市民が自由に自己表現できる社会の実現を目的している。
なかでも1997年に設立された「日本自費出版文化賞」(主催:一般社団法人日本グラフィックサービス工業会)は、自費出版に光を当て、著者の功績を讃え、かつ自費出版に再評価、活性化を促進しようとするもので、その主管団体として実施と運営のすべてを担当している。当社からはこれまでに部門賞2冊の他、『アイヌモシリ・北海道の民衆史』(杉山四郎・著)で第14回大賞を受賞した。
同法人の事業には、他にも『自費出版年鑑』の発行、「自費出版アドバイザー制度」による専門家の養成がある。
版元ドットコム有限責任事業組合
版元ドットコムは、版元(出版社)が自由な意思のもとに集まってつくった会員制の団体。その大きな目的は、各版元が扱う本をより多くの人に買ってもらうために、情報をインターネット上のデータベースとして公開・提供することである。版元ドットコムの公式サイトでは、詳細な書誌情報の他、主なオンライン書店の在庫情報などが表示され、購入者が普段利用しているサイトへ移動して本を購入することができる。
また、各版元が入力するデータには、各書店・取次(販売会社=問屋)向けの流通情報も含まれ、業界内に広く配信・活用されている。