吉井 厚志 著
定価:¥2,500+税
ISBN978-4-89115-383-0  C3051
A5判/262頁/並製
[2020年8月刊行]

order-1

概 要

深刻化する自然災害の被害を軽減し、持続可能な開発を目指すには何ができるのか。

北海道、そして東アジアで国土保全と環境保全の現場に携わってきた経験から導かれた「国土のゆとり」――「水辺緩衝空間」保全の意義と、空間的議論の重要性を実際の事例で検証。
また関係機関が協働し、課題解決への対応を次世代に伝える取り組みを紹介する。

洪水災害、土砂災害、火山噴火災害、海岸保全対策、そして地震による災害など、「水辺」から起こる自然災害への継続的な対応策の実現に向けた糸口となる一冊。

目 次

はじめに

1 世界と日本の国土保全と環境保全
1.1 世界の自然災害、衛生問題と環境問題、飢餓問題
1.2 自然災害が深刻な日本
1.3 日本の水資源問題と食料の輸入
1.4 国土保全と環境保全に関わる国際協力

2 洪水災害と氾濫原管理
2.1 石狩川流域の発展と洪水災害
2.2 釧路川流域の治水対策と環境保全
2.3 フィリピン国マニラ周辺の洪水災害と氾濫原管理
2.4 ベトナム国ハノイ周辺の洪水災害と保全対策
2.5 ラオス国ビエンチャン周辺の洪水災害と保全対策

3 日本の一級水系流域の水辺緩衝空間
3.1 水辺緩衝空間の定義
3.2 水辺緩衝空間指標による流域の比較
3.3 水辺緩衝空間の拡大による流域の保全
3.4 2019年台風19号洪水災害と水辺緩衝空間

4 土砂災害と水辺緩衝空間
4.1 札幌市の発展と豊平川の土砂災害対策
4.2 十勝川流域戸蔦別川の土砂災害と対策

5 火山周辺の防災と水辺緩衝空間
5.1 十勝岳の火山噴火災害と防災対策
5.2 有珠山の火山噴火災害と防災対策
5.3 フィリピン国マヨン火山の災害と防災対策

6 海岸保全と水辺緩衝空間
6.1 胆振海岸の侵食と海岸保全事業
6.2 鵡川海岸の侵食と海岸保全対策
6.3 東日本大震災による津波災害と海岸域の保全

7 海外の流域保全と水辺緩衝空間
7.1 マレーシア国のクラン川とムアル川流域
7.2 国際地形学会議における研究発表とスロバキア国の事例
7.3 オランダ国の「Room for the River」プロジェクト

8 地域における水辺緩衝空間の活用
8.1 石狩川流域の遊水地群とその活用
8.2 釧路川花咲かじいさんプロジェクト
8.3 有珠山「緑はどうなった?」授業

9 胆振東部地震災害と水辺緩衝空間
9.1 厚真町吉野地区の斜面崩壊災害
9.2 日高幌内川の河道閉塞
9.3 胆振東部地震災害の復旧・復興に向けた水辺緩衝空間の保全

おわりに

本文より

おわりに
 本書の原稿素案を第8章まで書き込んで、早く出版にこぎつけたいと思っていた矢先に、2018年の胆振東部地震、そして2019年台風19号による大災害が起こってしまった。凄惨な現場の様子が報道されるたびに、災害で亡くなられた方々の御冥福を祈り、被災者の皆様がいち早く日常を取り戻すことを心から願うばかりであった。そして、辛い思いをされている方々のために、何ができるのだろう? と自分に問いかけていた。
 少なくとも、今のわたしにできること、すべきことは、本書『国土のゆとり』を広めて、少しでも国土保全と環境保全に貢献することだと割り切ることにした。「国土のゆとり」を確保して、将来の自然災害による被害を軽減し、豊かな国土を目指す一歩を踏み出したいと願っている。
 自然災害には、洪水災害、土砂災害、高波や波浪浸食災害、地震や津波災害、火山災害などとても幅が広く、複合的に襲ってくる災害も目立ってきた。それぞれ現場において、対象とする自然災害を想定したとしても、別な災害を蒙る恐れもある。しかし、いずれの災害に対しても空間的な余裕の確保が重要であり、緊急時の対応にも活用できるはずだ。
(中略)
 国土保全と環境保全の取り組みにはゴールがなく、人類が生きている限りは永遠に続く課題である。課題解決のためには、地域の方々と研究者と行政担当者、関係する組織が信じ合って、連携を取って対応していく必要がある。その持続的な取り組みが途切れないように、次世代に伝えて協働していく姿勢を重視していきたい。第8章で述べたような試みは、その持続性を次世代にバトンタッチしていくための実例である。今後も楽しみながら努力を重ねていきたい。
(後略)

プロフィール

吉井 厚志(よしい・あつし)
1957年2月20日 博多生まれ。
その後父親の転勤で東京に移り、小学校3年からは札幌で育った。中学・高校時代はバレーボールにうつつをぬかしていた。
1975年、北海道大学に入学し、砂防工学研究室で恩師の東 三郎先生、新谷 融先生のもとで、土砂災害や砂防技術、森づくりについて学んだ。
1979年4月に北海道開発庁に採用になり、河川・砂防・海岸などの公共事業に関する仕事に携わる。1988年にはESCAP/WMO台風委員会事務局(在マニラ)に水文専門家として派遣され、東アジア諸国の洪水被害軽減のための技術協力に従事する。
1991年に帰国してから、国土保全と環境保全の現場において、行政と研究と地域の方々をつなぐ取り組みを進める。
1995年北海道大学から博士(農学)の学位取得。
2015年に土木研究所寒地土木研究所、国土交通省北海道開発局を退官し、みずみどり空間研究所を主宰する。株式会社ハタナカ昭和取締役副社長、萌州建設株式会社最高顧問・最高技術責任者として、現場においても微力ながら国土保全・環境保全にも貢献するつもりである。
2017年から2019年まで北海道科学大学非常勤講師を務めており、本書は大学の「環境計画学」の講義資料をベースとして執筆したものである。

上記内容は本書刊行時のものです。