綱島 洋一 著
定価:¥1,500+税
ISBN978-4-89115-340-3 C0065
A5判/152頁/並製
[2017年10月28日刊行]
概 要
扉の向こうに
北海道の明るい未来を築きたい
2030年、北海道新幹線は札幌へと到着する。
固く閉ざされた札幌延伸への夢の扉は、どのように開かれたのか。
その実現の背景には政財界のリーダーたちの粘り強い努力があった。
そして北海道新幹線開業を契機に、津軽海峡に新たな交流圏が育ち始めた。
キーワードは回遊。
「マグ女」「いさりび鉄道」の地域創生を追う。
目 次
プロローグ なぜ今、新幹線なのか
第一章 新たな物語が始まった
経済効果に募る期待/財源不足で建設凍結/凍結解除で海を渡る
悲願実現へ署名集め/政権交代で計画白紙/建設協力求め東北へ
オール北海道へ動く/転機となった大震災/官僚の知恵引き出す
長崎ルートとも連携/調整力生かし実現へ/閣僚発言が前向きに
開業を5年間前倒し
第二章 観光客が回遊を始めた
地域創生に挑む女子/危機感共有し独自色/道創る人のつながり
海峡に毛細血管通す/青森の熱い思い北へ/新時代の始まり予感
第三章 宝の山、在来線に活路
南高北低の観光列車/日本一の観光列車に/高い価値持つ北海道
高校新聞が動き出す/止まらぬ利用客減少/道外客を呼び寄せろ
他人任せを脱しよう/行動力備えたやる気
エピローグ 扉の向こうに輝く未来
資料
全国新幹線・路線図/北海道新幹線開業へのあゆみ
北海道新幹線に新型「H5系」車両/北海道新幹線ルート図
新幹線ごとに異なる最高速度
本文より
プロローグ
2016年3月26日。北海道民の「夢」が津軽海峡を潜り抜けた。北海道新幹線の開業。新函館北斗へと乗り入れた。
子供たちがたくさんの歓迎メッセージを書き綴った。さまざまな思いが新函館北斗や函館の駅舎を飾った。
そのひとつがこの言葉だ。
初めて目にする新幹線。その姿を思い描く。胸を膨らませる。姿勢を正して新幹線時代の北海道を見据えているように感じた。
ワクワクするメッセージ。開業の日にふさわしい。夢を膨らませる子供たち。その笑顔を思い浮かべた。
新函館北斗を出発する北海道新幹線。上り一番列車に乗り込んだ。どの車両も満席。ホームも開業を祝う人々でいっぱいだった。大人も子供も皆、ワクワクしながら新幹線が動き出すのを待っていた。まさに歴史的瞬間。その場に立ち会いながら思った。
「北海道新幹線は2030年度には札幌に乗り入れる。その実現に込められた思い、政策判断はどんなだったのか」 私は、朝日新聞記者として長く北海道を拠点に取材活動を続けてきた。だが、北海道新幹線の札幌延伸実現の背景をどれだけ知っていたか。
改めて取材を始めた。経緯を詳しく綴った記録、資料は残っていなかった。関わった人々の記憶が頼りだった。核心に迫るのは容易ではなかった。それでも、「北海道を元気にしたい」という熱い思いが伝わってきた。 北海道新幹線の札幌延伸をはじめとする整備新幹線。その建設には常に異論が唱えられてきた。
「整備新幹線は政治新幹線」
「我田引鉄」
「無駄な公共投資とならないか」
整備新幹線の多くが人口減の進む地方を走る。東海道新幹線のように多くの利用客を見込めないかもしれない。国や地方の財政事情に目をやれば、公共投資は厳選されねばならないのは事実だろう。
だが、ちょっと待って欲しい。新幹線を切望した地方に暮らす人々の思い、歴史的経過を知らなくて良いのか。建設の是非を議論できるのか。都会で暮らす人々の目線だけで見てはいないか。
ジャーナリズムとは、現代史を記録し、検証する仕事。未来への提言はジャーナリストが手掛けねばならない課題だ。北海道新幹線の札幌延伸を巡る検証はそのひとつだろう。札幌延伸の実現への過程をひも解き、北国を元気にする道筋を考えたい。
プロフィール
綱島洋一(つなしま・よういち)
ジャーナリスト、絵本作家。札幌市出身。
朝日新聞記者として北海道拓殖銀行の経営破たんなど、経済・企業分野の取材を手掛ける。
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)と連携し、海外の難民キャンプを巡り、適切なメガネを難民に贈る札幌市の企業、富士メガネの活動を追う。「見えた笑った 難民にメガネを 金井昭雄物語」は支援活動の同行取材ルポ。「サンタになった魔法使い」(中西出版)はその絵本化。
著書はほかに、線路と道路を走る新時代の乗り物デュアル・モード・ビークルの開発を取り上げた「走れ!ダーウィン JR北海道と柿沼博彦物語」(同)などがある。最近は、「札幌商工会議所110年史」を手掛けるなど、北海道を拠点とした取材、執筆活動に力を入れている。
上記内容は本書刊行時のものです。