9784891153137奥岡 茂雄 著
定価:¥1,800+税
ISBN978-4-89115-313-7 C1070
四六判/298頁/並製
[2015年7月刊行]

order-1order-3

概 要

「地域に開き、地域を拓く」
北海道の美術館黎明期から「北方の美」を見つめて42年――。
学芸員の視点で綴られた珠玉のエッセイ集。

「北海道の第一世代の美術家たちとその分身ともいえるたくさんの作品に接するなかで、そこに共通しているものとして深く感じ入ったことも、この『進化する普遍的詩魂』であり、同時にその魂に沈潜している北方の気配をにじませた『北方ロマン主義』であったということである。」
――「『北方ロマン主義』考」より

目 次

序 北の美のこころ

I
北海道の自然美
美術に見る「北方性」あるいは「北海道のイメージ」
「北方ロマン主義」考
蠣崎波響 武士・画人
菅原翠洲 北海道日本画の開拓使
山内弥一郎 新日本画を求めて
山口蓬春 モダニズムの旗手
本間莞彩 六華の抒情
久本春雄 写生を基礎として
中村善策 現場主義
岩橋英遠 道産子の辯
岩橋英遠 北方ロマンの世界
岩橋英遠 画家の「仕合わせ」
片岡球子 《ポーズ》連作
片岡球子 《面構》と似顔絵と
片岡球子 北海道の後輩たちへ
菊川多賀 なぜ生きるか、いかに生きるか
菊川多賀 ふるさと回想
国松 登 雨洗風磨
一原有徳 北海道功労賞受賞をたたえることば
小川原脩 雪原幻想
小谷博貞 モダンな造形思考
栃内忠男 おおらかな力動美
画家の個性 三人の道産子日本画家

II
大本 靖 写実と装飾
松樹路人 過去は永遠に
松樹路人 漂う無限感
後藤純男 厳粛の四季
竹岡羊子 愛の賛歌
伏木田光夫 霊性の冬
渡会純价 調和またの名は音楽の喜び
神田日勝 《室内風景》のハイデガー風解釈の試み
神田日勝 《馬(絶筆)》想
福井爽人 紫の世界
米谷雄平 根源へ
木嶋良治 いのちの原風景
川井 坦 伝統というもの
阿部典英 精神の冒険性
阿部典英 美術家の原点
瀬戸英樹 風景とは地域そのものである
羽生 輝 崇高な美の風景
杉山留美子 光の画家
岡部昌生 コミュニティアートの牽引者
柿﨑 熙 森と冬と生きとし生けるもの
國松明日香 詩の如き、影絵の如き
深井克美 浸潤する魂
西田陽二 北の光に包まれて
下沢敏也 「土力」への信頼
渡邊晃一 宇宙的な生命感
五人の「北方」表現

III
北海道の美術館 四十年の歩みと今後の課題
北海道立近代美術館 十年の歩みと今後の課題
北海道立近代美術館 ガラス・コレクション
北海道の美術 カナダ・アルバータ州巡回展
地域に美術館が存在するということ
美術館の地域社会への貢献
地域に開き、地域を拓く
i 北海道文化と美術館/ii 「日常のなかの自明性」を疑う/iii 地域社会と生活者/
iv 機能と役割/v 生涯学習社会/vi ホスピタリティ/vii ハンズ・オン展示/
viii アートマネジメントの視点/ix 道立美術館等活性化検討会議/x みんなで拓くミュージオロジー
木田金次郎美術館 新たな風土づくりへ
北海道立釧路芸術館 文化と地域と人と
とうや湖ぐるっと彫刻公園 生の賛歌
美術館の観客
美術館ボランティア 美しく生きる
美術館ボランティア 余白の会
美術館ボランティア 傘かしげ
学芸員 創造性
学芸員 伝習私録

IV
美について
美術鑑賞について
子どもの絵
安らかな老いと芸術
臨床美術
「東日本大震災」に、改めて「感性」の大切さを思う
東山魁夷の「北」
ムンクと「北」
十九世紀ロシア絵画と「北」
管見―中国絵画にみる「現代」と「北」
館縁
ミュージアム新書の終刊
「札幌アヴァンギャルドの潮流展」の意義
「さっぽろ・昭和30年代」展の意義
北海道の公募展今昔
北海道芸術学会の設立
「工」と「芸」
国宝 色絵藤花文茶壼
東京国立近代美術館 工芸館
道内の円空仏
美しい私のふるさと

本文より

序 北の美のこころ
 公立美術館には公立ゆえの使命がある。依拠する地域の美術の紹介を通して、人びとの人間性の回復や豊かさの実感等に寄与し、その文化的発展に幅広く貢献するというのもその一つといえる。およそ四十年間にわたり、北海道の美術館に関わってきた私の場合にもそれは例外ではなく、いつも頭から離れない重い課題であった。
 本書はそうした一美術館人の思いのもとに、主として在職中折々に書きとどめてきたエッセイ風の小文を収録したものである。テーマはそれぞれ異なっていても、「北の美のこころ」というタイトルの通り、おおむねそれらは私自身の足もとでもある北海道という地域の場所性、つまりは風土(社会・文化環境プラス自然環境)に根ざしていることはことわるまでもない。
 「北の美のこころ」――。このタイトルにはすでに固定観念化されて久しい「北海道」のイメージの再認識はもちろん、さらにそれを契機として、よりいっそうますます多彩で豊かなイメージの創出の一助になれば、という私なりの未来への願いを込めたつもりである。
 土地のイメージを新たに切り拓くうえで美術の果たす役割は大きい。その地に住む人にとっては当たり前すぎて特に気にとめることなどなかった事物も、創作や鑑賞など美術行為を通してその魅力や重要性に気づかされ感動する、ということは多くの人が体験的に知っている。そういうものだと半ば決めつけていた自らの土地のイメージが、新たな原生命を取りこみ再び生き生きと動き始める瞬間もそこにある。
 土地のイメージが豊かさを増せば増すほどに、そこで生まれた人たちや現に住んでいる人たちのその土地に対する愛着は増していく。また人びとの愛着が増せば増すほどに新たなイメージも湧出しその分豊かさも増していく。そういう好ましい循環の過程において培われた愛着が、自信や誇りや矜持等の気持を培い、またそのことが地域の人びと相互の信頼感や連帯感を生み出し、さらには地域の一体感意識の醸成にもつながっていくに違いない。
 改めていうと美術作品が提示する「美」とは、作者が作品として自分の言葉をもって語ることのなかに、創造的に自覚していったあくまでも生命的なものである。したがって鑑賞者としてその美について自分なりの味わい方を実践するには、作者が行ったと同じように今度は、自身の生命を活性化し創造的にその美の世界に没入することが求められる。当然のことながら、そのポイントとなるのが「こころ」がどこまで柔軟に自在に働くか、である。
 「こころ」という大和言葉を使った訳もそこにある。「こころ」を表記する際には心、情、精神、霊、魂、意識などの漢字がすぐさま想起されよう。が、どれを使っても私には限定的な意味が否めないような気がする。それからすると「こころ」の方がより自由で柔軟で微妙なニュアンスを含んでいるかに思われるのだ。そればかりか「こころ」には「ころころ」がつ(詰)まったもの、とする考え方があるというのも心強い。人間の意識や精神は、本来、外的環境に従い「ころころ」と活発自在に変転するというその理由には説得力が感じられるのである。
 まさしくこれはあらゆる事物に対して、臨機応変に想像力をしなやかに働かせ、美しさや情緒、心地良さ、人間や自然の生命の尊さなどを的確に感じとる、「感性」すなわち「感ずるこころ」のありようそのものなのだ。ますますの豊かなイメージの創出を目指してやまない「北のこころの美」の核心である。
 なお本書の内容面については、文体の不統一や必ずしも本書のタイトルにぴったり適合するものばかりでないこと、また発表済みの文章に加筆や修正を少なからず施したことから、初出文献名を省略し執筆時の年月表記にとどめてあることを宥恕たまわりたいと思う。
 最後にこのたびの出版に関して謝意を表したい。旧知の現代美術家、阿部典英さんには装画をご制作いただいた。こぼれ落ちんばかりに輝き満ちる陽光のなかをそよ風がうららかに吹き渡るという、北の大地を舞台にした「風光る」のイメージに、私自身、またまた元気を貰った気がする。中西出版の小林繁雄さんには企画から上梓に至る全工程にわたりその都度適切なご助言とともにスムーズな作業を実現していただいた。そのほかお世話になったすべての方々にここに深く感謝申し上げる次第である。

プロフィール

奥岡 茂雄(おくおか しげお)
1941年北海道出身。中央大学法学部卒、佛教大学社会学部卒。1973年4月から北海道教育庁で北海道立近代美術館の開設準備に従事。77年同館開館後は学芸課長、学芸部長、学芸副館長。2002年3月退職後は北海道浅井学園大学(現北翔大学)生涯学習部芸術メディア学科教授。2004年4月から同大大学院教授(~2008年3月)、及び札幌芸術の森美術館館長(~2012年3月)を併任。
現在、北翔大学大学院客員教授、北海道陶芸協会会長、創造都市さっぽろ・国際芸術祭実行委員会副会長、美術評論家連盟会員。
著書に『岩橋英遠』『片岡球子』(北海道新聞社)など、編著書に『美しい日本』(ぎょうせい)、『日本の名山』(郷土出版社)。

上記内容は本書刊行時のものです。