978-4-89115-260-4須崎 隆志 著
定価:¥1,400+税

ISBN978-4-89115-260-4 C0093
四六判/218頁/並製
[2011年11月刊行]

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概 要

焼鳥屋の主人が書き下ろした
世俗の中で生きる3編の物語! ~「帯文」より~

目 次

見殺し女房
ニスイの女
言霊居酒屋
あとがき

本文より

あとがき
 『言霊居酒屋』の登場人物が言っている通り、言葉には人を動かす力がある。いっこうに動きだそうとしない怠惰な人間を突然走らせることもある。この本はまさしく、そういう言霊に触発されて生まれ出たといっても過言ではない。
~(略)~
 平成三年四月、朝日カルチャーセンター『小説作法』の受講を申し込んだ。講師は小松茂氏。あと半年で五十の大台に乗ろうという春だった。このまま余生を大過なく過ごして、それで人生を終わっていいのか。何か生きてきた証の様なものを、自分なりの方法で残すべきではないか。しきりにそう思った。自分なりの方法 それは書くことだ。その技法を獲得しようと教室の門をたたいたのだ。
初めて書いた作品が「森の上の青い海」。自信などあるはずもなかったが、予想に反して高い評価を得た。以来、〈継続は力なり〉の言葉を信じて営々と書き続け、気がつくと丁度二十年が経っている。
~(略)~
 〈物書き〉にとって自分の作品の本を出版することは見果てぬ夢のようなものだ。いつかは出したいとは誰でも思う。だが、そのいつかがなかなか来ないのがほとんどなのだ。それが現実というものなのだろう。私も、そのうちいつかはと心の隅で夢を暖めつつ、日を送って来た。
 六十半ばを過ぎたある日、私は古希に向かってひた走る自分自身へのこれからの心構えを成語にした。自分に言い聞かせたり戒めたりするための、いわば座右の銘であった。
 未来を見据え 過去を慈しみ 現在い まを楽しむ
 我れながらいい出来栄えだとひそかに喜んだ。が、冒頭の〈未来を見据え〉という語を反芻しているうちに、いささか怖くなってきた。見据える、とは、決して遠い将来ではない『死』を見据えるということだ。Xデーは確実に近付いている。毎年、何人もの同級生が亡くなっている。その数は増える一方で、あの元気な人が、と絶句する人まで去年今年と鬼籍に入った。他人事ではない。明日は我が身かもしれない。いつかは、という確かな未来など無いのだ。あるのは今という現在のこの時だけだ。
 愕然とした。そのうちいつかは、などとのんきな寝言を言っている場合ではなかった。
 自分で作った座右の銘の言葉に突き動かされ、私はすぐさま上梓を決意した。
~(略)~
 店を始めて十年ほどたったある夜、カウンターに座った中年男性のお客が一言ぽつりと云ったことがある。
「マスター、趣味の小説書きはいい加減に切り上げてさ、もうそろそろ本業の焼鳥屋に専念したほうがいいんじゃないか」
 その言葉の矢は胸に突き刺さったまま、まだ残っている。私にとって小説は趣味などというものではない。が、その思いはいくら説明しても到底解ってはもらえないう。天の邪鬼の私は、彼の思惑とは逆に創作に専念するようになった。だからと言って、本業の焼鳥屋をおろそかにしたわけでは決してない。それまで以上に小説書きに真剣に取り組んできたということなのだ。今はもう誰が言ったのか定かではないその言葉が鮮やかに甦った瞬間、ジャンルは決まった。 そうだ、本業の焼鳥屋を舞台にした短編集にしよう。
 幾分こじつけめいてはいるが、言葉によって決まり、言葉によって生まれたのがこの「言霊居酒屋」だ、ということになる。
~(後略)~

プロフィール

須崎 隆志(すざき たかし)
1941年、長崎県崎戸町(現西海市)生まれ。
県立大崎高校卒。1963年、北九州市立北九州大学商学部入学。1969年、同校中退。
同年上京。業界紙記者、建築会社営業等、職を転々とし、1977年、北海道千歳市に移住。1985年、焼鳥屋を開業。現在に至る。
「札幌文学」同人。「千歳市民文芸」同人。

【執筆歴】
1991年10月、「森の上の青い海」がNHKラジオ札幌放送局の『北の本棚』で放送(朗読)される。
2004年、長崎新聞新春文芸作品に「背中の号泣」が入選、同紙に掲載される。
2005年~2008年、『文学界』全国同人雑誌作品ベスト5に、「笑うエゾリス」(2005年5月号)「薄明の中で水たまりが」(2006年7月)「暗い部屋にたどり着くまで」(2008年12月号)が選ばれる。
2010年、『札幌地方同人誌雑誌作品選集第1集』(中西出版)に「銀メダルの月」が掲載される。
2011年、「それぞれの片道切符」(『千歳市民文芸』)が第三四回千歳市民文芸賞を受賞。

上記内容は本書刊行時のものです。