9784891153052 那須 弘之 著
定価:¥1,500+税
ISBN4-89115-136-6  C0095
四六判/312頁/並製
[2005年3月刊行]

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概 要

「日本とロシアの間に横たわる不幸な歴史は、二つの国を大きく隔て、長く続いた東西の冷たい戦争が、両国民の対話の障害となってきた。海峡の向こう側には、鬼のような人々が住み、私たちに銃口を向け、今にも引き金を引こうとしているというのである。 ところが、海峡の向こう側へ行ってみると、そこには、自然を愛し、遠来の客を親切にもてなし、他人の苦しみを自分のことのように感じる、やさしく純朴な人々がいた。 」(あとがきより)

目 次

発刊に寄せて(北海道大学スラブ研究センター教授 荒井 信雄)
本書に登場する主な地域・都市
第1章 町は一瞬にして壊滅した ~サハリンを襲った巨大地震~
第2章 最北の地で ~吹雪と格闘した駆け出しの時代~
第3章 見えない国境線 ~冷戦のフロントライン~
第4章 奇跡の生還 ~流氷の海 生と死のドラマ~
第5章 海峡の向こう側 ~戦争が終わらない北辺の島~
第6章 開かれた国境の扉 ~動き出した隣人との交流~
第7章 幻の樺太昆布 ~ロシアに眠る未利用資源~
第8章 天空のロシア ~急激な市場経済化のしわ寄せ~
第9章 暗闘のウラジオストク ~要塞都市の苦悩~
第10章 辺境のアンテナ ~衛星通信技術が支える報道現場~
第11章 原潜解体 ~行き場のない原子炉~
第12章 大統領の心臓 ~飽くなき権力への執着~
第13章 大国の遺産 ~科学技術先進国の光と陰~
第14章 心の対話 ~相互理解への序章~
あとがき
主な参考文献及びテレビ番組

本文より

第 1 章
町は一瞬にして壊滅した
[サハリンを襲った巨大地震] 瓦礫の山

 ヘリコプターの丸窓を開けて、 ビデオカメラのレンズを地上に向けると、 恐ろしい光景がファインダーの中に飛び込んできた。
 建物が粉々に壊れている。 まるで、 爆破されたかのような惨状だ。 膨大な瓦礫の山が地上を埋め尽くしていた。 衝撃の大きさで頭の中が真っ白になり、 全身が凍り付いたようになった。
 その惨事は、 一九九五年五月二十七日、 日本時間の午後十時五分に起きた。 「サハリン北部大地震」 である。
現地時間では、 二十八日の午前一時五分、 下から突き上げるような激しい揺れが、 人々の寝込みを襲った。 その数秒後、 激しい横揺れがあった。 地震の規模は、 阪神大震災を上回るマグニチュード七・六。
 震源に最も近かったネフチェゴルスクの町は、 壊滅的な打撃を受けた。 地震は、 町に二十二棟あった労働者用のアパートを一瞬して倒壊させてしまったのである。
 ネフチェゴルスクは、 旧ソ連政府が石油開発のために作った町で、 当時は、 およそ三千人が住んでいた。
 地震発生時刻が未明であったため、 ほとんどの住民が眠りについていたことが被害を拡大した。 瓦礫の下敷きになって死亡した住民は二千人近くにのぼった。 旧ソ連時代を含め、 ロシアでは未曾有の大惨事となったのである。
 当時、 私は、 ロシア極東のウラジオストクに駐在していた。 現場はサハリン島の北端部に近いところにあり、 ウラジオストクからは、 直線で千三百キロあまり離れている。
 サハリン南部のユジノサハリンスクを経由するか、 大陸のハバロフスクを経由して、 空路、 サハリン北端の町オハへ入り、 ネフチェゴルスクをめざすしか方法はなかった。
 州政府のあるユジノサハリンスクは、 救援対策で混乱しているはずだ。 しかも、 ユジノサハリンスクからは、 北部へ通じる道路が整備されていない。 ユジノサハリンスクを経由すると、 足止めされる危惧があった。
サハリンの交通事情を知っていた私は、 ハバロフスク経由のルートで入ることを決断し、 ローカル線の小さな飛行機を乗り継いで、 北端の町、 オハまでたどりついたのである。
 オハは、 被災地の北、 百キロにあり、 空港では、 救援物資を運ぶヘリコプターが、 次々と発着しているのを見つけた。
 私は、 飛行機のタラップを降りると、 すぐに、 近くにいたヘリコプターに駆けつけ、 頼み込んで、 同乗させてもらったのだった。
 地震発生の翌日、 現地時間の午後二時過ぎ、 私は、 ネフチェゴルスク入りを果たした。 外国の報道機関としては、 一番乗りだった。
 ヘリコプターは、 町の中心部に臨時に設けられたヘリポートに、 粉塵を巻き上げながら着陸した。
 「これが、 人間の住んでいた建物なのか」
 目の前に広がる瓦礫の山が、 アパートであるとは、 とても信じられなかった。 あちこちに横たわる遺体を目の前にして、 しばらく地面に跪いたまま、 声が出なかった。 …………… (本文より)

プロフィール

那須 弘之(なす ひろゆき)
1958年、東京生まれ。日本大学芸術学部放送学科卒業。NHK入局後、稚内通信部記者。札幌放送局で航空取材を担当、北海道日ソプロジェクトメンバーとして、サハリンを度々往復。報道局国際部を経て、ソ連崩壊後の混迷するロシアで1994年からウラジオストク、96年から98年にかけて、モスクワに特派員として駐在。

上記内容は本書刊行時のものです。