4-89115-144-7高桑 哲男 著
定価:¥1,400+税
ISBN4-89115-144-7  C1000
B6判/366頁/並製
[2005年10月刊行]

order-1order-3

概 要

現行の算数・数学教育は、正確さ・同一性・記録性・伝達性などにすぐれた算数の力を生産活動・商業活動に活用して国力を高めるためになされているということです。(中略)このような1次学力は、経済発展の途上国において教育を授ける側と受ける側の狙いが一致するときに活用・発揮され、国と個人の双方に利益と達成感を与えます。他方、経済発展国で必要なのは2次学力であって、北欧諸国に手本が見られるような、「精神的充実」に到達することを目指した姿勢・立場です。我が国は当然として、このタイプの学力を養成すべきです。 (序文より)

目 次

1章 文章題(その1)
2章 数と座標
3章 加減算
4章 乗除算
5章 分  数
6章 文章題(その2)
7章 2次方程式
8章 数  列
9章 増殖過程
10章 三角関数と対数関数
11章 数的な随想
12章 数々の思い
13章 自問自答
14章 図に描く
15章 二つを並べる
16章 ことわざの中の算数
索  引

本文より

序 詰め込み教育×(-1)=個人的学修

(1)いま一人の男性が、次のような状況にあるとします。
1)眼前に一人の女性がいる。
2)眼前に二人の女性がいる。
3)どけたい岩石がいつもの三倍の重さで持ち上げられない。
こんなとき、1)女性を抱きしめたいと願う、2)どちらの女性がより魅力的かと比較する、3)二人の仲間に呼びかけ、いつもの力を発揮してどけようと策を練る、といった行為・行動に移るはずです。
算数的に解釈すると、これらはそれぞれ加算・減算・乗除算と呼ばれる演算操作であり、各人が本能的・先天的に持ち合わせている能力と考えられます。それを磨いて他者との競争に勝ち、また、自分の血を遺すことで、進化の道程を歩み続けている人類の一員としての義務を果たすためです。
(2)最近声高に唱えられている「若年層の算数・数学の学力低下」については、次の四つが原因と考えられそうです。
1)本能的生活力の低下。上記(1)項で述べたような演算操作でものごとを見ようとしない癖がついてしまったようです。
2)算数力がなくても、生活に困らない。ゲームをする上で算数はなくてよいし、いわゆる「勉強」をしないほうが楽しく遊ぶ機会が増える。
3)算数教育からいったん落ちこぼれたら最後で、爪弾きされる。呑み込みの遅い者は教育スピードについていけない。
4)いわゆる「詰め込み教育」が計算力を重視し、若者が望む「新鮮な感動」や「真理の奥深さ」とはかけ離れたところの能力が求められることに頭脳が反発する。
以上のうち、4)は補足が必要でしょう。現行の算数・数学教育は、正確さ・同一性・記録性・伝達性などにすぐれた算数の力を生産活動・商業活動に活用して国力を高めるためになされているということです。そこでは、「正しく」「言われたとおりに」「速く」計算をして答えを出すことが求められ、個人の見方や発想は排除されます。そのプロジェクトの責任を持つリーダーの意思が部下のみんなに等しく伝達・実行されることが、全体的効率を上げるために必要だからです。
(3)現行の算数・数学教育もこの線に沿っており、教材には
・1+1 = 2‥‥二人が協力することによる力の倍加。
・1×1 = 1‥‥正確にコピーされたことの確認。
・1/2+1/3+1/6 = 1‥‥各自の分(ぶん)をわきまえるべきこと。
・y = 0.8x‥‥努力に応じて成果が挙がること。
といった加算的・比例的演算操作が選ばれて、計算力と同時に作業の心構えが仕込まれます。
このような1次学力は、経済発展の途上国において教育を授ける側と受ける側の狙いが一致するときに活用・発揮され、国と個人の双方に利益と達成感を与えます。他方、経済発展国で必要なのは2次学力であって、北欧諸国に手本が見られるような、「精神的充実」に到達することを目指した姿勢・立場です。我が国は当然として、このタイプの学力を養成すべきです。
(4)それはどんな学力か。分からないときは、
・手品のネタを知りたいときは、横側から見ること。
・敵をやっつけるには、背後に回ること。
という知恵に照らして、「回転」を持ち出すのがよいようです。そこには、思いやり・反省・後援・休息・避難・再生・改善・安定・連続などの概念が含まれています。正負の数直線上にない答えを見出そうとするときには、真っ先に取り上げるべき座標系と言えそうです。
ということで、本書では、その構成の隠れ軸に「回転」を持ち込んでいます。具体的には、1)三角関数、2)円周率π、3)負号-と虚数 i、4)自然対数の底(てい)eが主役格で登場します。オイラーの公式において、次のように位置づけられる面々です。
e = cosθ+i sinθ、 e = -1。
また、数学嫌いを生み出す典型的な分岐点としては、小学校の「分数」、中学校の「絶対値」「根号・平方根」が挙げられそうです。本書では、これらについても「回転」の観点から言及します。
(5)せっかくの「詰め込み教育」が実を結ばなかったために「算数的思考は中学校に置いてきた」、「数式を見ると鳥肌が立つ」と弁解せざるをえない人がいるとすれば、今一度若々しい頭脳の時代に戻り、気分を一新して算数の道を歩きなおしてもらいたい。そんな願いを込めて本書を執筆しました。 ・ ・ ・(序文より) ・ ・ ・

プロフィール

高桑 哲男(たかくわ てつお)
1940年、北海道小樽市生まれ。北海道大学大学院工学研究科修士課程修了。工学博士。同研究科元教授。専門は環境衛生工学。著書に、「配水管網の解析と設計」(森北出版)、分担執筆に「土木計画数理」(朝倉書店)、「土木工学ハンドブック」(技報堂)、「水理公式集」(技報堂)など。一般書に、「発想練習」(中西出版)。「日本語の自学自修法」(中西出版)。「『諺』今、その謎が解けた!」(中西出版)。

上記内容は本書刊行時のものです。