978-4-89115-279-6北岡 けんいち 著
定価:¥952+税

ISBN978-4-89115-279-6  C0036
四六判/226頁/上製
[2013年6月刊行]

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概 要

介護員の直面する現実と悩める人々を描く、フィクション日誌。
施設長が介護の現場で、静かに施設の空気を吸い、次々と生まれるストーリー。 (帯文より)

目 次

前文

第一章 どうして?
 第1話 どうして? 12
 第2話 リモコン 16
 第3話 おかあさんの口癖 20
 第4話 どうしようも無い男 24
 第5話 取り残され自分史 28
 第6話 隠された話 32
 第7話 地下の洗濯室 36
 第8話 帰郷~もう一つの物語 40
 第9話 濡れぎぬ 44
 第10話 言葉少ない新人 48

第二章 若者の夏
 第11話 若者の夏 54
 第12話 報われぬ人生 58
 第13話 介護ビジネス 62
 第14話 しやわせの原型 66
 第15話 試練の朝 70
 第16話 香世さんの夢 74
 第17話 点滴 78
 第18話 孤独な死 82
 第19話 ブドウ園生活伝説 86

第三章 誤った選択
 第20話 誤った選択 92
 第21話 サイドビジネス 96
 第22話 病室風景 100
 第23話 姉妹の垣根 104
 第24話 若き胸の話 108
 第25話 新天地 112
 第26話 BODY LANGUAGE 116
 第27話 見所ある新人介護員 120
 第28話 お姉介護員 124
 第29話 灰色の現実 128
 第30話 姉貴先輩との架け橋 132

第四章 大晦日の夜勤
 第31話 大晦日の夜勤 138
 第32話 お金がすべての話 142
 第33話 飛び散った恋 146
 第34話 常夏女性への想い 150
 第35話 荒野の風景 154
 第36話 ひとり立ち 158
 第37話 明日を望む若者 162
 第38話 安住の地 166
 第39話 用務員の息子 170

第五章 熟年新人~ひとり想い
 第40話 熟年新人~ひとり想い 176
 第41話 中年介護員の新世界 180
 第42話 熟年介護員の機転 184
 第43話 花街育ち 188
 第44話 母親指南 192
 第45話 元「二十四の瞳」の生徒さん 196
 第46話 平凡な現実 200
 第47話 懲りない男 204
 第48話 粉吹雪の旅立ち 208
 第49話 迷い道途上 212
 第50話 一夜明けての思い 216

【力強い介護員になる法】
(1)~(50)

本文より

解 説
 「追いつけない人」…著者北岡さんとは20年近い付き合いになりました。老人保健施設で一緒に働き始めた時、私は長い公務員生活を経て副施設長に。彼は施設医師兼施設長でして、ただ年齢は私がズット年上でした。若い時分、市幹部がセレモニーで読む挨拶文を書く役目をしていたので、施設でも公文書作成をやっていました。それに自ら「名文章家」と吹聴したため、そこに目を付けた北岡さんが原稿を持ち込み、私に校正を頼んできたのが個人的付き合い開始でした。以来私のことを「吉田先生」と師匠格に祭り上げ、法人退職後の現在も続いています。最初の頃、彼の文はビギナー特有の読み手を困らせる句読点無しの長い、自分勝手な文章でしたよ。師匠として、それを教えた覚えは無いし何度か注意したのですが、聞く耳無しでして。今では何故か、割としっかりした文を書くようになり、「てにをは」を訂正する程度になりました。いつの間にか筆力は私も追いつけないレベルに成長したと感じ、師の役割を果たせて珍しく彼に関して、素直にうれしく思っている点です。
 「変わらない人」…彼は早書きです。当方が市在職中、弔文作成依頼から1時間で仕上げるのが通例でしたので、北岡さんが医師をしながら次々作品を完成できるのは、自慢話に聞こえますが師の私の影響を受けたと思っています。変わらないと言えば、彼の書き物では主役がいつも介護員。そして性格も変わっていません。会社では、アイデアが浮かぶと周囲にその実行をすぐに頼むらしい。また、一度私の家にまで電話があり、「暇があったら来てほしい」と言うので3日後に伺うと「あれかい? もう終わったよ」とつれなく言うのです、急ぐなら言ってくれればいいのに。それからは連絡が有り次第、駆けつけるようにすると機嫌がいい。こんなせっかちで我がまま、ひねくれ性分があるのに、どうしてスッキリした文が書けるのかが分からない部分ですね。
 「飽きないひと」…彼はこの数年、小樽札幌近辺以外に足を伸ばしたことが無いはず。毎日、時間通り平気で遅めの朝に出勤し、夜は療養者が寝静まった頃に音も無く会社を出る。北岡氏は、お酒が飲めないので夜の宴会は苦手。私がたまに誘われるのは昼食ランチばかりです。それも、イッつも会社近くの同じレストランなのです、お腹がすいていますからつき合いますけど、余り嬉しくはない。このように同じ行為を繰り返す彼が、書くのに飽きない理由は(有島武郎)文学ファンであることです。研究書を集め、私にも「珍しい有島本があったら教えて」と頼み込んでいまして。一時は、記念館があるニセコ町に足繁く通い、「展示物は変わらないのに」と受け付けに不審な顔をされたくないらしく、行くたびにグッズを買っていると聞きましたし。本来、気が弱いのですね。施設長ですから貫禄がほしいと思うのですが、存在感の希薄さと発言の軽さは私と付き合った頃から一向に解消していません。
 「おどける人」…記念館に関わる話を紹介しますと。ある日、館で高齢男性グループと一緒になり、そのツアー客は芸能界の映画スター『有島一郎』記念館と思って入場したらしく、「どうもオカシイ」って騒ぎ始めた男性陣に向かい、彼は「映写室へ行くといいですよ」と意味有りげに誘導した。室では重苦しいグリーグをBGMにした『有島武郎』の壮絶な一生をスライドで示しているのですが、居合わせたおじさん数人には東宝映画「サラリーマン重役」でも上映していると思わせ?全員映写室へ入って行くのを見届け彼は逃げ出した。このように「いたずら」をしたがり、返す刀で公的会合の出席やスピーチを避け、記念誌や広報で書くのを嫌がる。それで以前勤めていたOB連から「姿が見えないけど施設長はいつ辞めたのですか?」とか「病気なの?」と問われます。こんな勘違いを見聞きするのを楽しみにしている様子なので「一体、何を考えて生きてきたのだろう」とコッチはがっかりしてしまいまして。いくつになっても面白く、子供っぽい人と私は理解していますけど。
 「信条の見えないひと」…このように「おどけ心」を密かに楽しむ熟年男、北岡氏は「~主義で本を書いた」と主張しません。ただ彼は大正時代、ニセコで農場解放を小作人に宣言をし、また漁村で働きながら絵を描く青年を励まし、経済事情で学校へ行けない児童を教えた「遠友夜学校」の世話をしたと言う、ヒューマニティ姿勢を貫いた有島武郎を相変わらず尊敬しているようです。内弁慶で根っからの地元崇拝の彼ですから、作家有島が同じ学校出身(有島は北大の前身、札幌農学校出)であることも、気に入っているのでしょう。北岡作品は、このあたりから出発したのではと私は前から推察していました。彼の本の内容は穏やかですが、当たり前の人間関係として介護員が社会で認められることにこだわり最終、不幸にも資格学歴を有しない青い上昇気分を持つ若き介護員をできるだけ、応援したい旨を発信していると私は感じましたが、年寄りの深読みですかねぇ、ほんとのところは分からないままです。
 「一緒にやっていきたい人」…先日会社を訪ね、お昼休みなのに彼が自室にいないのでフロアを覗くと。その日も高齢者の大食堂内の介護ステーションで、北岡さんは何か一心に書いていました。これが以前、職員から「自分たちを監視しているのでは?」とダークな噂さえ立った状況でして、誤嚥などが起きやすいリアルな食事介助現場を喝破しているように見えますが、実は静かに施設の空気を吸い「介護員物語」を構想しているなと私は直感した。介護員が社会で関心を持たれるのが懸案事で、その解決まで施設職員を主人公にした創作を彼は続けるだろうと当方は予想しています。こんな北岡氏は、現場重視のいい人だと思いますので応援をしていきたい。さてこの辺で私は、年老いて疲れてきたので師匠らしい伝言を贈り「解説」を終えたいのです。
 「お互い、還暦を過ぎたし無理をせず健康に留意していきましょう」と。(談)

吉田宏平(元社会福祉法人小樽北勉会評議員)

プロフィール

北岡 けんいち(きたおか けんいち)
1946年、北海道小樽市生まれ。1971年、北海道大学医学部卒業。老人保健施設ラポール東小樽勤務中。

上記内容は本書刊行時のものです。