978-4-89115-309-0柿沼 博彦 著
定価:¥1,200+税
ISBN978-4-89115-309-0  C0034
四六判/196頁/並製
[2015年4月刊行]

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概 要

JR北海道で振子式特急列車やデュアル・モード・ビーグル(DMV)など、画期的な車両の開発を指揮してきた著者が、逆境に打ち勝っていくための「ものの考え方・運び方」を、経験をもとに、実際の車両開発のエピソードを交えながらわかりやすく紹介。
日常の生活のなかで、会社の仕事のなかで、人間が生きていく上で多くの場面で生かすことのできるヒントの連続!

目 次

第1部 ハンディを個性に変える思考法~個性は創造性で磨きをかける~
《1》創造性で磨きをかけた振子式特急列車
《2》逆ぶれ対策から生まれた車体傾斜車両
《3》天窓開放型リゾート列車と「知識の本質」
《4》世界初の交流回生システムはIGBTからの「ひらめき」
《5》問題解決のシステム思考

第2部 21世紀の人と組織
《1》イノベーションと組識
《2》創造的リーダーの条件
《3》イノベーションを阻む壁
《4》21世紀はシステム思考の時代
《5》システム思考の問題解決
《6》21世紀の人材

おわりに

参考文献

本文より

おわりに
 人生の目標は“いかに成功したか”“いかに偉くなったか”“いかにお金持ちになったか”ではありません。その過程において“いかに自分が満足するように楽しめたのか”に最大の価値があります。
 成功の反対は失敗です。成功したことのみを評価すれば、失敗した人はすべて人生の落伍者になります。世界には様々な多くのアスリートが生まれています。彼らは優勝すること、トップになることを夢見ているわけですが、全員が優勝することもトップなることも決してありません。
最後にあるのは“いかに負けられたか”という「価値観」です。人間の夢は無限です。その欲望も無限です。しかし、人間の一生の時間は限られたものです。
 かように考えれば、人生の「価値観」は、優勝することやトップになるという何かの目標に達することではなく、その経過の楽しみ方にこそ本質があると考えるべきかと思います。
 成功という言葉に若干類似している言葉に「成長」という言葉があります。私たちは「成長」という言葉を「子どもが元気で成長してほしい」「この経験がきっと彼を成長させる」などと使います。「成長」とは、「幼虫」が「さなぎ」になり「成虫」(例・蝶・蝉)になることに類似しています。生物学では「さなぎ」とは「完全変態を行う昆虫が、幼虫から成虫になる途中で、食物をとらず、脱皮して静止状態にある段階」(『岩波国語辞典』)をいい、この時期に幼虫の組織は成虫に必要な組織に変わっていきます。「成長」とは「幼虫」が「幼虫」のまま大きくなることではなく「幼虫」が「さなぎ」になり「成虫」になることともいえます。
 人間の成長とは、失敗したときには言い訳をせず謙虚に失敗に学び、成功したときには自分を褒め、調子に乗せて「もっと頑張るぞ!」と執念を燃やし、さらなる目標に向けて挑戦する。このプロセスを繰り返すことが「成長」といえるのではないでしょうか。
 このように考えると、人間が「成功」するということは、様々なチャンスに恵まれた人で、その中には「運がよかった」という人もいます。しかし「成長」は万人に平等にあるといえます。ならば人生は“いかに負けられたか”というところに究極の目標をおくべきかと思います。もちろんその前提にあるものは夢であり、夢の実現に向けて努力した結果として得られるものです。
 100年以上を経た今も名著となっているルーシー・モード・モンゴメリ原作の『赤毛のアン』(村岡花子訳・第35章)に、「努力」について次のような一文があります。
「『努力の喜び』というものがわかりだしたわ。いっしょうけんめいにやって勝つことのつぎにいいことは、いっしょうけんめいやって落ちることなのよ(I begin to understand what is meant by the “joy of the strife” Next to trying and winning, the best thing is trying and failing)」
 大学を卒業して鉄道を生業とし、鉄道技術者として歩んできた半世紀、この間に様々な経験を通して体験を積み上げ、十分ではないものの自らの「知性」を磨くことができました。中でも本誌で詳しく述べた「振子式特急列車の実用化」「交流回生電車の実用化」。さらには実用化には道半ばではありますが「線路と道路を走ることのできる『DMV』の開発」などは、筆者に対して適正な「場」が与えられた結果であり、あらためて感謝申し上げます。
 そして、その成功は、強固な組織、力強い仲間に支えられた結果の賜物であり、このような「場」「組織」様々な「仲間」が私に与えられなかったなら、私はまったく無力に等しいものであったと振り返っています。仕事が推進できるには、それなりの強力な組織・体制があって初めて実行できるのです。あらためて、プロジェクトの人はもちろんのこと関係した多くの方々に御礼と感謝を申し上げます。
 願わくは本書をお読みになられ、「企業で働く人はどんな立場におかれているのか」「どんな心構えを持っていなければならないのか」について私の考える一端を感じ取っていただけたら幸いです。
 本書の出版にあたり、構想段階から様々な貴重なご意見をいただいた、元JR広報専任部長の仙北屋正明氏、中西出版の河西博嗣氏と引山絵里さんにはことのほかお世話になり、あらためて御礼申し上げます。さらに、丹保憲仁理事長には大変お忙しい中、筆者の拙文をお読みいただき、過分なる推薦のお言葉を頂き恐悦至極に存じます。
 また、北の大地をこよなく愛し、誰よりも北海道への「志」を強く持たれ、「夢」半ばにしてこの世を去られた坂本眞一相談役(元JR北海道社長・会長)には、長きにわたり心温まるご指導をいただきましたことに感謝申し上げます。
 最後に本書の執筆にあたり、陰で支えてくれた妻恵子にあらためて感謝します。また、すでに他界した父母に本書を捧げます。生涯を通して筆者の我が儘を聞き入れ、「成長」を望み、温かく見守り続けてくれたことに感謝します。

プロフィール

柿沼 博彦(かきぬま ひろひこ)
1943年栃木県生まれ。1969年北海道大学大学院修士課程修了、日本国有鉄道入社。
1987年国鉄民営化によりJR北海道へ入社、リゾート列車、振子式特急列車、交流回生電車、DMVなどの開発を行う。
2001年文部科学大臣賞(科学技術功労者)、2005年紫綬褒章を受章。開発したハイブリッド駆動システムやDMVは数々の賞を受賞した。
現在、道都大学客員教授、北海道教育大学経営委員。
著書に『旅客車工学概論』(レールウェイ・システム・リサーチ)、共著に『北海道の交通体系展望』(公益財団法人はまなす財団)など。
上記内容は本書刊行時のものです。