9784891151874高井 かほる 著
定価:¥1,400+税
ISBN978-4-89115-187-4  C0093
四六判/292頁/並製
[2009年3月刊行]

<品切れ>

概 要

高井かほるさんは、サハリン生まれの小樽育ち。当然ながら小樽を舞台にした作品が多い。小樽は、明治、大正、昭和の繁栄ぶりを色濃く残す町。髙井さんのこ とばを借りるとこの町に住む人は「当時をしのびつつ今を努めて明るく、おおらかに生きようとしている」とか。本書には、髙井さんならではの、あたたかい視 線と明るいタッチで愛の交流を描いた六作品が所載されている。
どれもが、この町に住む老いた人たちの喜びや哀しみを描いた物語だが、これら作品の背後にあるさまざまな事柄に思いをやると、知らぬまに寂寞とした境地に 行きつく。髙井さんは、読者のそうした揺らぐ心を見透かしながら「おおらかに生きようとする」老いの人たちを描きあげた。うまい人である。
作家・札幌文学編集人 田中 和夫~(「帯文」より

目 次

それでもいいよ
バラを買う老人
愛はいらない
愛人にしてください
エリカ
老い人の町
あとがき

本文より

 連載小説「老い人の町」が終わった。ほっとしたような、まだまだ書き続けていたいような、複雑な心境である。
 小樽は四人に一人が老人の域に入っているという。そのせいか取材は容易にかなった。町を歩いていても、いろんな集まりに顔を出しても、元気な高齢者が多く、幅をきかせている。それはそれで大いに結構だと思う。
 かつて妊婦は大人の先輩の助けを得て家で子供を産み、老後は人間の後輩である家族によって支えられ旅立つのも可能だったが、今は稀有なこととなった。
 理由はさまざまだが、その一つに、老人とそうでない人間の数のバランスがくずれたことにあると思う。このままでは、手のかかる老人をやさしく送り出したくても、若い層の人口が追いつかない。経済的なことはともかく、一人当たりの介護的な負担が大である。
 私も間もなく老いの域に入るが、「老いてはこうあるべき」などと大それた思想は持ち合わせていないけれど、自然の生命力ではなく、医学の力により個人の尊厳を意としない「命だけは生かされ続ける」という姿で、この世に長逗留だけはしたくないものである。
 それでも命ある限りは生きていかなければならない。こうなればもう、老人が老人を支えて、行くところまで行くしかないと思えてくる。
 「老い人の町」で、私がテーマにしたのは「同じ穴のむじな」ということだが、これには異論をとなえる人がいるかもしれない。というのは「ムジナ」とは狸 のことで油断のならない動物の代表であり、同じ穴で生活すると気が合うだろうが、いい意味には取られがたい。それなのに敢えてこの言葉をテーマにしたの は、人間でも動物でも老いるほどに利口であり知恵がある。それをしたたかな経験なくしていえようか。ようやく世間を知った頃に死を迎えなければならないと いう摂理でもある。
 まあ、それまでに、自分の置かれた環境の中で、精いっぱい楽しく、たくましく、助け合いながら生きていこうとする老人の理想を私は描きたかった。過去に固執せず、つかみきれない未来に期待もせず、今に生きる老人の姿がすがすがしく映ればいい。(~後略~)

プロフィール

高井 かほる(たかい かほる)
樺太、大泊(コルサコフ)生まれ。小樽桜陽高等学校卒業。「札幌文学」同人。
1989年、「まわり道」第九回コスモス文学賞(長編小説)受賞。1999年、「庵の客」第九回らいらっく文学賞候補作。2000年、「残された選択」第十回やまなし文学賞候補作。
北海道新聞「朝の食卓」一年間、「えぞふじ」三年間執筆。
<著書>「まわり道」、「庵の客」、「つぶやく女」

上記内容は本書刊行時のものです。