978-4-89115-225-3小野規矩夫 著
定価:¥1,400+税
ISBN978-4-89115-225-3  C0093
四六判/220頁/並製
[2011年4月刊行]

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概 要

振り返ると激動の時代があった。
そこで生きた。
滴り落ちる清冽な「老境小説」
―ここにもまた紛れもない文学がある。 (「帯文」より)

目 次

老いの終末
一 夜
返り見すれぼ
あとがき

本文より

 この本は私の五冊目の作品集である。内容のうち「老いの終末」は『札幌文学』第七十二号(二〇〇八年刊)に、「一夜」は同七十四号(二〇〇九年刊)に発 表したものである。そのあともう一編ものにはしたが、これは愚作で、単行本に入れられるようなものではない。そこで年も年だし、かねてから胸に幡(わだか ま)っていた多少長いものを書き、これを加えて一冊にしようと思い立った。それが後半に掲載した「返り見すれば」である。
 かなりに辛い仕事であったが、書きおえた今になってみればそうなるべきものであった。私は二十代の若さの盛りに一度だけかなり長いものを書いたことはあ るが、その後六十歳の中頃まで、主として仕事の関係からせいぜい七、八十枚のもの、それもボツボツと間をおいて、ようやく文学と繋ってきた。仕事から引退 すると作品の数そのものは増えたが、長さはこれまでと同様のがつづいた。つまりすっかりその型に慣れてしまっていたのである。
 それがこの歳になって、まず百六十枚ほどになった構成をものにするのに意外なほど手をやいた。考えてみれば当然である。ただ八十枚を倍にすればそれでい いというものではないが、もう頭はそう働いてはくれなかった、枚数が倍になることは、作品の質も根本から変わる、それをどうやら悟って構成をし、ようやく 執筆にかかった途中で八十二歳になってしまった。つまり七十歳の壁などと称するのは何ほどのこともなく過ぎたので、今度も高をくくっていたのだが、実は八 十歳を越えるというのは大変なことだった。平坦な山がいきなり急峻になり、足取りもそれに準じてよろけることを思い知らされたのである。しかしもう遅い。 ようやく構成した大筋を何とか頭に入れておいて書き進むということ自体、今までに経験しなかった緊張を要求されることになる。ダブリ記述をやったのではな いか、とある夜おそくに飛び上がったことさえある。
 そういう経過をたどってようやくこの作品を書き上げたのであるから、今後さらにこの規模の、構成の整ったものを書いていくのはもうできないのではない か。老化は待ってはくれないからだ。したがって多分これからは、短いものを急がず書いていくことになろうが、無論それがただの干からびた老人小説では書く 意味がない。若い人のとはもちろん違いはするが、滴り落ちる清洌な老境小説とでもいうか、あるいは永く漬け込んだ酒の肴のように小さくても独特の匂いと味 覚に溢れた作品を、世に送り出したい。そしてこれもまたまぎれもない文学であるということを、読者の納得を得たい。真っ赤になった初校を眼にしながら、こ ういう思いが不安とともに頭をよぎっている。
 この本の刊行に当たっては、中西出版株式会社の河西博嗣氏に諸事様々な点でお世話になった。また妻の小野礼子(北海道水彩画会・会員)には表紙絵、カットのほか、校正などでも様々に手を煩わした。列記して感謝の意を表する。 (「あとがき」より)

プロフィール

小野 規矩夫(おの きくお)
1928 札幌市に生れる。
1947 北海道大学付属農林専門部に入学する。
1951 北海道庁にはいる(農務部)。
1955 「札幌文学会」に加入する。
1963 『新北海道史』編集スタッフとなる。
1985 北海道庁退職。引き続き札幌市教育委員会嘱託として『新札幌市史』の編集にあたる。
1992 同上を退職する。
2003 短編集「アトリエの宴」自費出版
2005 短編集「自分史の日々」自費出版
2006 「連れだつ旅」(文芸社)
2007 「混沌の構図」中西出版

上記内容は本書刊行時のものです。